第7回 「夢先生」が教わったこと ――能登にて(Noto)
日本協会が進めている「こころのプロジェクト」の活動の一環として、7月3日から2日間、能登の輪島の小学校を訪れてきました。
「こころのプロジェクト」とは、日本代表経験者や現役のJリーガー、なでしこリーグの選手が「夢先生」として学校の授業を受け持ち、
夢や目標を持つことの素晴らしさやフェアプレー、助け合いの精神を子供たちと語り合い、伝えていく活動です。
皆さんご存じのとおり、今年の3月25日、震度6強の能登半島地震が起きました。
多くの建物や住宅が倒壊し、大変な被害を生んだことは、記憶に新しいと思います。
今回は、「夢先生」の活動としては初めて首都圏を離れ、
元FC東京のアマラオ氏、元・女子日本代表の大竹奈美さんとともに、能登の2つの小学校を訪れました。
生徒の心の傷跡は地震から3カ月経った今も深く、夜中に一人で眠れない子
供がいたり、
常に動いていないと落ち着かない「多動症」という症状が出ている子がいる、ということを訪れる前に聞いていました。
その中で、自分に何ができるのだろう、ということを僕はずっと行きの飛行機の中で、考えていました。
空港に着き、車で移動している最中に目に飛び込んできたのは、倒壊したままの住宅や、瓦礫類でした。
実際にそうした光景を目にして、僕は自分自身の経験からどんなことを伝えられるだろう、という思いをますます強くしました。
過去、僕は2度「夢先生」として教壇に立たせてもらいました。
その授業の中で、僕は必ず黒板に、自分のこれまでの人生のバイオグラフを書いてきました。
「将来、サッカー選手になりたいと思ったこと」
「その夢を叶えて、サッカー選手にはなれたけど、最初の2年間はなかなか試合に出られなくて苦しんだこと」
「その後、ブラジルに行って自分の中に確かな変化が生まれたこと」
「クラブでレギュラーになった後、日本代表として、ワールドカップに出場するという新しい夢ができたこと」
「ワールドカップ出場を目前にして、その舞台に立つ夢は叶わなかったこと」
そして「僕のすべてであるサッカーの素晴らしさを伝え続けることが、僕の
生涯を通しての新しい夢になっていること」
過去2回の授業ではそうしたお話をしながら、「どんなことがあってもあきらめないこと。頑張り続けること」を伝えようとしてきたと思います。
ただ、今回は「頑張り続けること」についてお話をするのはやめました。
実際に会った彼らは、僕があれこれ言う以前に、精いっぱい頑張っていることが手に取るように分かったからです。
今回、嫌いなものを少しでもなくして、好きなものをどんどん見つけていこう、という話をしました。
「あなたの夢は何ですか」と尋ねられても、それをすぐに言葉にできる子もいるし、できない子もいます。
でも「日ごろ、関心があるものは何?」と尋ねると、どんどん飛び出してくるんです。
好きなもの、夢中になれるものがあれば、それはきっといつか夢につながっていきます。
授業を始めてから20分も経つと「僕は将来こうしたい」「私は将来こうなりたい」という声で、教室中がいっぱいになりました。
そこで感じたのは、生徒たちの一体感です。
地震は、美しい町とみんなの心に深い傷跡を残していきました。
でもそれをきっかけに、みんなの距離感が縮まったのかもしれない、と感じました。
夢を口にするのを恥ずかしがるより、お互いのことをもっと知り合いたい、助け合いたい、という一体感のように感じました。
困ったことがあったら、みんなで問題をシェアして解決していこうという、サッカーにも通じる考え方を僕は教わった気がしました。
東京に帰る日、輪島の朝市を訪れました。まだ復興が進んでおらず、テントで営業をしていたお店で輪島塗の素敵なお箸を買いました。
お盆も買いました。
家で大切に使おうと思っています。それを使うたびに、僕はきっと能登の皆さんのことを思い出すでしょう。
今度、「夢先生」としてどこか他の学校の教壇に立つことがあったら、能登のみんなのことを話そうと決めています。
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