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第5回 アイデアが詰まった宝箱 ――カンボジアにて(Cambodia) >>そのときの写真はコチラ

僕にとって一つの「ルーツ」と呼べる場所。それが、カンボジアです。 最初にそこを訪れたのは2001年1月。
まだ現役当時で、ちょうどケガのリハビリに明け暮れていたときの話です。
現地での学校設立に携わっているNPO団体から、日本協会を通じ
「サッカーボールが欲しいんです」というメッセージを伝えてもらったのが、すべての始まりでした。
僕は、サッカーボールを携えてかの地を訪れました。
それ以来、ボールが与えてくれたカンボジアとの不思議なつながりは、今も続いています。

サッカーボールを届けたり、孤児院を訪れたり、サッカー教室をしたりする交流を続ける中で、06年の1月には小さな小学校もできました。
この小学校は僕の引退試合での収益の一部とチャリティー・フットサル大会での収益によって建設されたものです。
その学校のことを思うと、どこか気恥ずかしいような、うれしいような、複雑な気持ちになりますが、
その小学校の子供たちの顔を思い出すと自然に笑みが浮かんできます。
サッカーを愛する人たちの思いが、そこには結集されているからです。

今年の2月15日から2月18日まで、僕は6度目のカンボジア訪問を行ないました。 今回の渡航の目的は3つ。
ラビ・ケック・カンボジアサッカー協会副会長との会談。
ポル・ポト派の内戦によって、 親を亡くした子供たちが集まる孤児院へのサッカーボールの寄贈、
そして初めての試みが、プノンペンから車で約2時間のタケオ州にある学校施設への「グラウンドの寄贈」でした。
このグラウンドは、昨年9月に行なったチャリティー・フットサル大会の収益が建設費の一部に充てられました。
でもなぜ「グラウンド」なのか。皆さんは不思議に思われるかもしれません。

僕は、次のように考えました。
驚かれるかもしれませんが、カンボジアの学校にはほとんど校庭がありません。グラウンドがありません。
タイとカンボジアの国境近くには、現在も600万から700万個ほどの地雷が埋まっていると言われています。
そうした背景もあってか、「土地を慣らす」ということに対しての働きかけが、まだ十分ではないのだと思います。
「ここで思い切りボールを蹴ってみようよ。ここなら安全だ」という場所が、カンボジアには足りません。

僕は、ピッチの中から何かをもらってここまで生きてきました。
だから「グラウンド」は、人生のアイディアの詰まった宝箱だと思っています。
そこではルールさえ守れば、どんなことをしたっていいんです。
そこは自分一人の力でどうしようもないときに、仲間と力を共有してゴールを目指すことができる場所です。
サッカーをするより、見る方が好きなのだとしたら少し高いイスを備えつけるだけで、そこは立派な「スタジアム」になります。
ボコボコの土で少しスライディングをするには不便であれば、芝生を植えることだって可能かもしれません。

今回できたスタジアムには、まだスタンドがありません。芝生もありません。
でも、サッカーゴールはちゃんと2つあります。そして、安全です。思いっきりボールを蹴ることができます。
このグラウンドが時間を経てみんなに愛されるようになれば、きっと何かしらの変化が起きるはずです。
安心してボールを追いかけることができるグラウンドが、カンボジアにもっともっとたくさん増えてくれたらいいな、
そしてここがその一つのきっかけになっ てくれたらいいな、と心から思っています。

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