第2回 思いが形になった日 ――カンボジアにて(Cambodia) >>そのときの写真はコチラ
カンボジアの首都、プノンペンから車で北に8時間。バッタンバン州のバラミンチェイ村に、小さな小学校ができました。
実は、その小学校の名前には僕の名前が入っていて、気恥ずかしいのが半分、そして素直に心からうれしいと感じる気持ちが半分。
言葉ではうまく言えないのですが、その学校のことを考えると自然に笑みが浮かんできます。
1月17日から5日間、僕はカンボジアを訪れました。5度目となる今回の訪問の目的は、この小学校の開校式に出席することです。
この小学校は、03年6月21日に行なわれた僕の引退試合での収益と、
05年1月30日に行ったチャリティー・フットサル大会での収益によって建設されました。
学校ができた、ということに関しては「びっくりしている」というのが素直な気持ちです。まさか、と言ってもいい。
語弊はあるかもしれませんが、僕は「学校を作ろう」という目的があって、そうした活動をしてきたわけではなかったからです。
これまで、そこにあった学校を訪れて、サッカー教室を開いたり、サッカーボールを寄贈したり、という活動はしてきましたが、
「学校を作る」なんていう発想は、僕にとってはデカ過ぎて思いも及ばなかった、と言ってもいいかもしれません。
何より、今回うれしいのは、日本のサッカーによって集まった人たちの思いが学校という「形」になったことです。
引退試合という目的はありましたが、「サッカーが好き」というかかわりで、
みんなに見に来てもらって、サッカーをきっかけにできた仲間たちが、大勢集まってくれた。
チャリティー・フットサルもそうです。サッカーを通じて、本当にたくさんのマスコミの方にも集まってもらって、大勢のお客さんに来ていただいた。
僕らみんながサッカーを楽しんだことによって、「学校」という一つの形になったということに、素直に感銘を受けています。
バラミンチェイ村は、ポル・ポト派の武装勢力が最後まで残っていた、非常に治安の悪い地域です。
プノンペンからそこまでは車で何台も連なって、100キロ近い猛スピードで、道によってはわざとゆっくり走りながら移動をしました。
理由を尋ねると、場所によって「そうしないと武装勢力に襲われる可能性がある」ということでした。
「聞かなきゃよかった」と思いつつ、車の中で身を固くしました。
バラミンチェイは現地でも有名な水没地帯でもあり、雨季になると、洪水が起きてしまいます。
そのような場所ですから、子供たちは遠くの学校に通うことができません。小学校1、2年生であれば流されてしまうような水量になるそうです。
洪水が起これば、地雷が流されてくる危険性もあります。治安が悪い、水没地帯。だからバラミンチェイには、どうしても学校が必要でした。
現地の方々が、大切にしていこう、という気持ちを持ってくださっているのもうれしい。この学校は、一つの「きっかけ」に過ぎません。
この学校をきっかけに、少しずつ大きなうねりが生まれてくれれば幸せです。
現地の開校式に行ったときに、たくさんの生徒たちの出迎えを受けました。「あなたがキタザワか」と声をかけてもらいました。
そのときの気持ちは何
とも言えません。
「サッカーって、すごいな。サッカーって、本当にすごいな」それは涙が出そうな、貴重な体験でした。
このたびカンボジア王国から、こうした活動を評価していただき、「カンボジア王国社会再建貢献金勲章」をいただきました。
本当に、本当に恐縮するばかりです。もちろん、これは僕一人の力でいただいたものではありません。
この場をお借りして、僕を支えてくださったすべての皆さんにお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。
僕は今回あらためてサッカーというスポーツの持つ力強さ、素晴らしさ、奥深さ、人をひきつける求心力を感じました。
できたばかりの学校の校舎を見て噛み締めてきました。サッカーボールは温かくて、幸せです。
きれいごとかもしれないけど、もっともっといろんな可能性を秘めていると僕は信じたい。
いつか地雷も、武装勢力も、洪水も、汚いトイレも、あの子供たちの涙も、サッカーボールが全部ぶっ壊してくれると僕は信じたい。
この先、僕に何ができるか分からないけれど、まだまだ突っ走るつもりでいます。
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